双極性障害を抱えていると(別にそうではない人だって、時にはそうなることもあるだろうが)、風呂に入るのが難しい日がある。そういう時はどうするかといえば、簡単で、風呂に入らなければいい。風呂に毎日入らなければならないのは、常に人と会って交渉をするような仕事の人物であって、おれのようなリモートワークを特別に許された障害者雇用人間には当てはまらない。おれは風呂をある程度免除されている身分の者である。
それはそれとして、最近は頻繁に風呂に入るためのコツを発見したからみなさんにここで紹介をしたいと思う。前述の通り風呂に毎日入る必要はないのだが、しかし、入れば入ったなりにメリットがたくさんある。まず気持ちが良い。とても気持ちがよい。あたかも、シャトー・ディフに幽閉されていた囚人がうまく逃げおおせて、ようやく南仏の海にざぶんと身体を投げ込んだがごとく、解放された気持ちになれる。それから肌がすべすべになって調子が良い。おれは美肌にこだわるような軟弱な輩ではないが、そんでも風呂上がりの肌のすべらかなことはおれの心を和やかにしてくれる。そして何より、この世で最上の妻たるエデと身体の接触を伴う愛情表現を示す場合は、おれは、風呂に入っておったほうが好ましいと思う。そりゃだれでも、フケだらけの頭をした男とハグをしたいとは考えないだろう。
さて、その風呂に入るためのコツというのが次のようなものだ。まず風呂釜に高温のお湯を入れる。高温ってのは主観によるだろうが、おれの場合は45度くらいがいいらしい。そんで、お湯がたまったならば、そこへクナイプの入浴剤をぶちまけてかき混ぜる。なぜクナイプの入浴剤でなければいけないかと言えば、それは、おれの家にはクナイプが、独身時代に買ったものだが、たくさん余っており、これを消費したいと是非考えているからだ。このようにして、おれはクナイプ色に染まった熱湯を準備することが出来た。そうしたらおれダルタニャンは裸になる。肉体から衣服を取り除く。おれの筋肉はあたかもオデュッセウスのそれの如くがちがちだが、そんでも、中年に差し掛かってきた功徳でもあろうか、腹のほうがぽこっと飛び出してこれはこれで愛嬌があって良い。そんなおれの肉体美をエデは賛美するが、ともかく、そのままおれはクナイプ熱湯にダイブするのだ。熱い! そう叫んで肩まで湯に浸かり、そんで、しばらく経ったら風呂釜の湯を桶ですくって頭を洗って、最後に、陰部をしっかり洗浄し、ささっと入浴を終える。
これがおれダルタニャンの発明した江戸式の入浴である。どこら辺が江戸なのかと言われればそれは、我慢、忍耐しながら熱い風呂に浸かってそれで強がって「気持ちよかった」とエデに報告するところがそうだ。
実際のところ、精神疾患を抱えている人は風呂を大変の苦手としている。おれは今回紹介した方法が誰にでも有効であるとは考えない。むしろ最近軽躁気味のおれのことだから、元気があるからこそ実行できているだけの手段であるとも言えるかしらん。ともかくおれの考えているのは、精神疾患を抱えながらも生活上の様々な不便を乗り越えるために工夫を重ね、そんで、なんとか生存を継続している者たちはイリオン攻めの勇士たちに並ぶ素晴らしい英雄であるってことだ。そうした細やかな努力は、ホメロスが語ったように、けちんぼなアガメムノーン王(世間の人々)には評価をされない。だが、せめて、おれだけは当事者として、諸君の奮闘をよく分かってやり、そして、その日々の勝利に対し栄えある金羊毛勲章を授けたい。